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東京高等裁判所 昭和28年(う)1750号 判決 1953年8月03日

控訴人 浦和区検察庁副検事 高橋吉二

被告人 山城三道こと崔三道

検察官 横川陽五郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年に処する。

押収にかかるネームプレート(原審昭和二十八年押第三号の一)電流積算計器(同押号の三)三百ボルト用七本繕被覆銅線一キロ百グラム(同押号の六)はいずれも被害者たる大洋繊維株式会社に還付する。

原審並びに当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、浦和区検察庁検察官事務取扱次席検事大久保重太郎作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書にそれぞれ記載のとおりであるので、以下順次これらについて判断する。

控訴趣意補充書の論旨第一点について、

論旨は、原判決がその主文で住居侵入の点について「被告人を懲役六月に処する。」とともに、「窃盗の事実については被告人を無罪とする。」と二個の主文の言渡をしているのは、本件公訴事実が牽連関係にある住居侵入窃盗の事実であるにかんがみ、明らかに牽連犯の解釈を誤り併合罪の規定を適用して処断したものと認められ、原判決はこの点において法令の適用を誤つた違法があるというのである。よつて本件起訴状に徴せば、検察官は公訴事実として「被告人は窃盗の目的を以て昭和二十八年二月十四日朝埼玉県北足立郡与野町大字上落合七ノ八二二番地横溝朝明の管理に係る太陽繊維株式会社工場内に侵入し同会社所有の積算電力計器一箇動力用被覆銅線約一キロ四百米及高圧器二ケ(時価合計約五万五千三百円相当)を窃取したものである」という事実を起訴し、罪名として「窃盗刑法第二百三十五条、住居侵入同法第百三十条」とその罪名及び罰条を掲げている。従つてこれを素直に理解すれば、別段の事情が認められない限り、右の住居侵入と窃盗の間には刑法第五十四条第一項後段の関係にあるものとして起訴されたものと認めるのが相当である。蓋し凡そ住居侵入の所為と窃盗の所為とは、特段の事情の認められない限り、通常手段結果の関係にあつて刑法第五十四条第一項後段のいわゆる牽連犯を構成するものであり、又起訴状における罰条の摘示としては同条のような刑法総則規定は特に必要のある場合の外は通常掲記されないものであり、且つ、これを掲記しなくとも別に違法とは解されないものであるから、本件においても特に右両者が併合罪の関係にあるものであるならば、その旨検察官において掲記するであろうし、若しくは公判廷においてその趣旨を陳述する機会もあるであろうし、又審理の過程においてその疑いを生じたならば、裁判所としてはその点の釈明をするとかその他適宜の方法を採り得る余地は十分ある筈である。然るに記録を精査しても本件においてはかかる事跡は全く存しないのであるから、裁判所が審理の結果判決をするに当り右起訴にかかる公訴事実のうち住居侵入の点のみを有罪と認め、窃盗の点について犯罪の証明なしと認めた場合には、単に一個の主文で有罪の言渡をなし別に無罪の言渡をすべきものではなく、ただその理由中において窃盗の点について犯罪の証明はないが、有罪である住居侵入の点と牽連一罪の関係にあるものとして起訴されたものと認められるから、特に主文において無罪の言渡をしない旨説明して置けば足りるものである。従つて原判決が事ここにいでず主文において、本件公訴事実中住居侵入の点について懲役刑の言渡をするとともに、更に窃盗の点について無罪の言渡をしたのは、洵に所論のとおり法令の適用を誤つたものであつて、その違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨も亦理由がある。

(その余の判決理由は省略する)

(裁判長判事 小中公毅 判事 渡辺辰吉 判事 江碕太郎)

検察官の補充控訴趣意

第一点原判決は法令の適用を誤り、其誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

即ち原判決は其主文に於て「被告人を懲役六月に処する」「窃盗の事実については被告人を無罪とする」との二個の主文の言渡をしているのであるが、本件公訴事実たる住居侵入と窃盗との事実が牽連犯の関係にあることは起訴状記載の公訴事実自体に徴し明らかである。而して牽連犯が科刑上の一罪であることも亦争いのないところであるから之に対し裁判を言渡す場合は当然一個の主文により言渡すべきものであつて仮に牽連関係にある他の事実を無罪となす場合に於ても、判決理由中に於て其旨説示すれば足り主文に於て之を言渡すべきものではない。

然るに原判決が前記の如く二個の主文を以て言渡しているのは明かに牽連犯の解釈を誤り併合罪の規定を適用して処断したものと認められ原判決はこの点において法令の適用を誤つたものである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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